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イントロダクション

東は太平洋のイースター島、西はインド洋のマダガスカルに至るまで

16の島国に残る伝統的な音楽とパフォーマンスを記録した驚異の音楽ドキュメンタリー

5000年前、太平洋には海を渡る人々がいた。
彼らは数千年に渡って大海原を攻略し、地球の半分を覆う島々にたどり着いた。
文字が普及する前の時代、彼らはその先々で音楽を残しながら交流していった――。

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音楽プロデューサーでもある監督のティム・コールとプロデューサーのバオバオ・チェンは3年間に渡りその航路をたどった。台湾から出発してオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、さらに太平洋の向こう側に位置するマダカスカル、そしてイースター島に至るまで実に 16の島国に残る伝統的な音楽やパフォーマンスを記録していった。

レコーディングと撮影が行われた場所を示すマップ 16の島国で収録が行われた

本作はオーストラリアの先住民に受け継がれる“ソングライン”という思想/信仰に基づいて、100名を越える各島々の音楽家たちと共同で、かつて同じ言葉や音楽で繋がっていた島々の歌を もう一度集結させる壮大な音楽プロジェクト!

映画に先駆けて2018年 7月に音楽アルバム が発売されると、 世界各国で評判を呼び イギリス、ドイツなどで音楽賞を次々に受賞 。 出演ミュージシャンたちによるライブも世界 14カ国で行われ、 こちらも高い評価を浴びている 。

「 Small Island Big Song 」

映画に先駆けて2018年 7月に音楽アルバム が発売されると、 世界各国で評判を呼び イギリス、ドイツなどで音楽賞を次々に受賞 。 出演ミュージシャンたちによるライブも世界 14カ国で行われ、 こちらも高い評価を浴びている 。

「Small Island Big Song」と名付けられたこの試みは、単なる伝統音楽の記録に留まらず、それぞれの島で生きる人々が伝承の音楽を伝統の楽器で演奏し、やがて一つの壮大なアンサンブルを奏でる…!

いままでの ワールドミュージックや

伝統音楽の常識を打ち破る

全く新しい音楽ドキュメンタリーが幕を開ける!

コメント

音楽の心地よさと映像の美しさで
ずっとリピートにしたくなる映画です。

ピーター・バラカン (ブロードキャスター)

言葉より前に歌があった。
海に漂い、風に流されるが如く音と歌に身を任せる。すると自分の奥底にさざ波が起きてくる。その波が自分より大きな存在へと導いてくれるのだ。

ダースレイダー (ラッパー)

大海原を進むカヌー。うねりと吹き抜ける風が聞こえてくる。 湧き上がる歌声が大地、空、星と共鳴し、1つの音楽となっていく。それはすべての生命と響き合う、切なくも美しいリズム。
海の旅人が流れ着いた島々に伝えられた歌の数々。 それらが新たに生まれ変わり、私たちのところに帰ってきた。 時を遡り、未来につながる壮大な旅。 それに同行し、写真に撮りたいと思った。 私たちの心を響き合わせるために。

長倉洋海 (写真家)

ぼくはブルース・チャトウィンの著書『ソングライン』のファンです。この映画は、まさに太平洋やインド洋にオーストロネシア人の「ソングライン」 があったことを、歌と音楽で教えてくれます。
約 5000 年前に台湾を出発し、ポリネシアやメラネシアを経て、遠くイースター島まで達したという、アウトリガーカヌーと伝統航海術による旅。
彼(女)たちの歌声、楽器の演奏、ダンスがセッションのなかで重なるとき、島々をこえて共通のDNAが目をさまし、ぼくらの身体を興奮で震わせます。

金子遊 (批評家・多摩美術大学准教授)

―音楽アルバムへの海外からのコメント―

スモールアイランド・ビッグソングは巨大なプロジェクトへと成長する小さな宝石のようなアイデア

イギリス 音楽雑誌『Songlines』

セス・ジョーダン (音楽評論家)

スモールアイランド・ビッグソングは素晴らしい音楽的成果であると同時に、環境問題とへ自然保護に対する文化的にも環境的にも最前線にある地域からの音楽による強いメッセージである。

「ビルボードアジア」

ロブ・シュワルツ

あまりにも長い間「ワールドミュージック」という用語はアフリカ、インド、南アメリカの音楽だけを指し示すものだった。しかしそれはもう違う!オーストラリアのティム・コールと台湾のバオバオ・チェンによってプロデュースされたこの18 曲は崇高で、朗らかで、伝統的で、素晴らしい多文化世界への探検である。

オーストラリア新聞『Sydney Morning Herald』

ブルース・エルダー (音楽評論家)

作品解説

石村 智 東京文化財研究所 無形文化遺産部 音声映像記録研究室 室長

音楽ドキュメンタリー『大海原のソングライン(原題:Small Island Big Song)』の主役となるのは、南島語族(オーストロネシア)と呼ばれる言語集団である。彼らは東南アジア島嶼部からオセアニア、そしてマダガスカルにいたるまでの広大な地域に居住する「海の民」である。

考古学・言語学・形質人類学などの研究成果によると、彼らの祖先は台湾を原郷とするモンゴロイド集団で、今から4000~5000年ほど前にカヌーを用いて海洋世界に乗り出していったと考えられている。そのうちの一団は、台湾からフィリピン、マレーシア、インドネシアといった東南アジア島嶼部を経由し、今から3000年ほど前にオセアニアのメラネシア地域に入って「ラピタ人」と呼ばれる集団となった。「ラピタ人」はその後、西ポリネシア地域に入って「ポリネシア人」へと変容し、さらに東ポリネシアのタヒチ、ハワイ、ラパヌイ(イースター島)、さらにアオテアロア(ニュージーランド)にまで拡散していった。また別の一団は、今から1500~2000年ほど前に、インドネシアからインド洋をわたってマダガスカルにまで到達した。

このように南島語族の人々は、共通の祖先から分かれていった人々であるため、人類学的にも言語学的にも、さらには文化的にも共通性が高い。 

『大海原のソングライン』では、オーストロネシアの別々の島に暮らす人々がそれぞれ伝統的な音楽を歌ったり奏でたりするのを個別に収録し、そしてそれらを合わせていくことで壮大なアンサンブルを構成するという斬新な試みがなされている。会ったこともない別々の島の人々の音楽が、違和感なくひとつの音楽になっていく様は感動的であるが、これも彼らがもともと共通の祖先を持つ、血を分けたキョウダイのような人々であったからこそ成し得たことであると言えよう。

南島語族の音楽に共通するもののひとつとして、テンポの速い16ビートという要素が挙げられる。アフリカにも同じく16ビートが存在するが、アフリカのそれが大地に根差したうねりを感じさせるものであるのに対し、南島語族のそれはむしろ波や風のような軽快さを感じさせる。「海の民」である彼らにとって、カヌーに打ち付ける波の音や、パドルが水面を打つ規則正しいリズム、そうした生活に根差したリズムが音楽にも反映されるのかもしれない。そして、共通の祖先から分かれて何千年もの月日がたっても、海で暮らす彼らの生活や文化には、そうしたリズムが共有され続けているのだろう。

そうした意味で、この映画の原題であるSmall Island Big Songは、小さな島の音楽が合わさってひとつの大きな音楽になる様を的確に表しているし、邦題に用いられているソングラインという言葉も、共通の祖先とのつながり、そして島と島とのつながりをうまく表現していると言えるだろう。

ところで私たち日本列島の住民もまた、彼ら南島語族の人々と何らかのつながりがあるのではないかとこれまで多くの学者に指摘されてきた。例えば形質人類学者の片山一道は縄文人とポリネシア人の骨格の共通性を指摘し、言語学者の崎山理は日本語の中に南島語族の語彙が多く認められることを指摘している。さらに文化人類学者の大林太良は、魏志倭人伝に描かれた倭国(邪馬台国)の習俗が南島語族のそれに近いことを指摘している。

かつて奄美大島に暮らした文学者の島尾敏夫は、日本を太平洋の一地域としてとらえる「ヤポネシア」論を唱えた。日本列島に住む私たちも、海を通して南島語族の人々とつながっているのは事実である。そして両者の間には、今は忘れてしまったつながりがあったのかもしれない。この映画を観て、その音楽、その風景に心おどる感情が生まれたなら、それはそうした記憶が呼び覚まされたことによるのかもしれない。

石村 智(いしむら とも) 1976年、兵庫県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所を経て、現在、独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所無形文化遺産部音声映像記録研究室長。専門はオセアニアの人類学・考古学・文化遺産学。著書に『ラピタ人の考古学』(溪水社、2011年)、『よみがえる古代の港:古地形を復元する』(吉川弘文館、2017年);『景観人類学―身体・政治・マテリアリテ』(共著、時潮社、2016年)、『水中文化遺産論集―海から甦る歴史』(共著、勉誠出版、2017年)。